reverse end/AOKI YUMA

些か頓狂なボーカルと切り裂くようなギターソロで唐突に始まるこの27分のディスクは、驚くべきことに現在地球上では間違いなく最も無名な部類のミュージシャンの人生初の音源である。
ヒステリックに徹する事もせずメロディックに流すようにもせずただ真直ぐに一語一語言い聞かせるように歌うトラック1は、彼自信のある種の生い立ちを語っている。
この初々しさと貫禄が混ざったようなボーカルを食い潰すような勢いのクソやかましいギターソロを奏でるのは、他でもない「きみ」こと鷲崎健その人である。
まるで競い合うようにエスカレートしていくこの2種類の音は優しく、悲しく、強く、そしてとても気だるい。極上のブルースと言っても過言ではないだろう。
いきなり腰にくる重たいトラック1が過ぎると軽快に駆け上がるベースと共にトラック2の幕が上がる。
まるで曇り空が晴れたような展開のこのロックナンバーは若干腰が引けた姿勢のメッセージで全ての焦がれる人々にエールを送る。
暗礁を越えた先のトラック3は打って変わってただひたすらに甘酸っぱいバラードだ。
こんなにも機微に満ちた複雑な感情の渦を衒うこともなく、含むこともなくただ他人事のように送り出す歌詞はひたすらに心地良い。
咲き乱れた花が枯れる冬のように訪れるトラック4はタイトル通りの苦い味わいを感じさせる。
無常な終幕を連想させるメロディに載せられたリリックは諦めと希望の両方を抱いてただ下へと流れて行く。
麗しく悲壮な終わり方を真っ向から否定するように力強く叩き出されるトラック5は言うなればセルフアンコール。臆病者の渾身の一撃だ。
アッパーなダンスチューンに乗せて紡ぎ出されるリリックの数々はメロディのイメージとは裏腹に余りにも可憐で絶望的で取るに足らない物語を形作る。
最上の幸福と最上の悲しみで螺旋を描き、名残を惜しむように数々の音が狂い咲きながらテレビアニメ1本よりも短くアルバムは終わりを告げる。
この30分に満たない小旅行にどのような価値を見出すかは万人万色ではあるだろうが、無名の一言で片付けるには余りにも惜しい原石に満ち溢れているのではないだろうか。
雪玉は転がり始めた。一寸先で爆ぜ割れるか、大地を飲み込む雪崩になるか。真の顚末は神ときみだけが見届ける事になるのだろう。